「反転授業」と「MOOC」の根本的な違いとは〜加藤大氏に聞く


 

米国で反転授業を始めた教員たちの著書「Flip Your Classroom」

米国で反転授業を始めた教員たちの著書「Flip Your Classroom」

 MOOC(ムーク)と反転授業はどう違う?

——先ほどレベルの高くない大学で効果が期待できるという話がありましたが、東京大学などでも導入の動きがありますね。

「一口に『反転授業』と言っても、大きく2つのタイプに分かれます。『個別学習型』と『協同学習型』です。上位層の大学では、宿題動画で予習した単元の理解度を把握するために、授業ではテスト演習を行う『個別学習型』が多い傾向があります。例えば東京都内にある理工系の総合大学では、1〜2年次の基礎課程で落ちこぼれてしまうと、3年次以降の応用課程をまったく理解できなくなるため、1コマ90分のほとんどをテスト演習に費やしている授業があります」

——オンラインの環境を利用する学習形態として、MOOC(*1)も注目されていますね。

「反転授業とMOOCはよく混同されるんですよ。MOOCは、学校でしか体験できなかった教育活動を『仮想空間』でどう実現するかを追求する試みで、学校教育にとって破壊的イノベーションになる可能性も秘めています。反転授業は、同じ時間、同じ空間に教員と学生たちが集う教室という『実空間』は何のために存在するのか、いわば学校教育の存在意義を問い直した産物と言えます」

「『edX』(*2)や『JMOOC』(*3)などのMOOCの講義映像を反転授業の宿題に転用するよう推奨している東京大学大学院の山内祐平先生のように、両者の普及活動を同時に担う例もあります。ご本人は明確に分けて語っておられるのですが、予備知識のないメディアの方などには混同されてしまうのかもしれません」

反転授業とMOOCは混同されることも多い(2014年4月に開始したJMOOC「gacco」http://gacco.org

反転授業とMOOCは混同されることも多い(2014年4月に開始したJMOOC「gacco」http://gacco.org

——音楽に例えれば、MOOCはスタジオ録音の楽曲で、反転授業はライブに参加するようなイメージですね。

「面白い例えですね。事前に楽曲を知らないとライブの楽しみは半減しますし。ライブの役割を追求するのが反転授業の本質でしょうね。教材を増やしてあらゆる学習段階に個別対応する『アダプティブラーニング』という方法もありますが、コンテンツを量産すればするほど、メンテナンスの負担は増大してしまいます。講義の映像は経年劣化しやすいメディアなので、特に負担が大きいはずです」

——講義映像が経年劣化しやすいというのはどういうことですか。

「例えば『今でしょ!』といった流行語を真似て、3年後に視聴した場合を想像してみてください。イラストアニメーションや文字情報と比べて、講義映像に登場する講師の話しぶりやジェスチャー、服装やヘアスタイルなどは時の流れに耐えられないものです。また、スマートフォンでの視聴も多いことを想定すれば、限られた画面上を講師の姿が占拠する動画は効率的とは言えません」

——では、宿題となる動画の鮮度を保つにはどうしたらいいのでしょうか。

「陳腐化しやすい情報を減らすこと。メンテナンス性を重視し、シンプルに作ること。動画の作り込みに頼らないのがコツです。更新されやすい学術情報は予め動画化せず、授業で教えるようにしてもいいでしょう。更新前の情報を含む宿題動画をあえて視聴させ、教室で『実は…』と耳打ちするように教える、したたかな演出も時には必要かもしれません」

「宿題動画をYouTubeなどインターネットから調達するのも一案です。実際、北海道大学ではマイケル・サンデル教授の『白熱教室』を宿題にして、『情報学』の授業を設計しています。今後、宿題動画を選り分ける『キュレーションサービス』も求められてくると思いますが、内製にせよ外部調達にせよ、宿題動画は教員が主体的に選ぶことが重要です」

 

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*1: Massive Open Online Coursesの略で、インターネット上で誰もが受講できる授業のこと。
*2: マサチューセッツ工科大学(MIT)やハーバード大学などが立ち上げた、米国の主なMOOCの1つ。日本の大学では京都大学などが参加している。
URL: https://www.edx.org
*3: NTTドコモなどの企業と大学が共同で創設した日本版のMOOC。2014年4月に「gacco」というサービス名でスタートしている。
URL: http://gacco.org

 




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