世界の教育の潮流「新しい能力」とは〜松下佳代氏に聞く

 教育における能力偏重の問題点

松下氏の著書

——PISAリテラシーにおいて「知識」はどういった位置づけなのでしょうか。

「PISAリテラシーのテストは、多くの国で義務教育の修了段階にあたる15歳を対象にしていますが、問題の内容を理解するために求められる知識は、日本で言えば小学校高学年〜中学校低学年程度のレベルです。あとは基本的に問題文から読み取るという形になっています」

——国によって教える内容にばらつきがあるからでしょうか。

「各国のカリキュラムに依存する問題は出せないというのもありますが、それだけではないように思います。OECDのアンドレア・シュライヒャー教育局次長(*1)は『知識は陳腐化するし、インターネットで検索すればすぐ出てくるのだから、それほど重要ではない』といった趣旨の発言をしています」

——知識よりも能力の方が汎用的だという考えに根ざしているということですね。

「もちろん、それはPISAリテラシーに限った話ではありません。現在は日本を見ても世界を見ても、『知識・能力』と言った時に能力の方が強調される傾向にあるのではないでしょうか。ただ、私はそこに疑問を持っており、汎用性があるのは、能力よりもむしろ知識ではないかと考えています」

——汎用性のある知識とは、具体的にはどういったものでしょうか。

「それぞれの学問分野で議論されてきた、世の中を理解するうえで必要な概念です。例えば世界経済の状況を見る時に、どんなに批判的思考力を持っていたとしても、貨幣や資本といった経済学の基本的な概念を深く理解していなければ短期的な見方しかできませんよね。しかも、ネットですぐに調べられる浅いところの知識と違って、こうした深いところの知識はそう簡単に陳腐化しないと思います」

「一方、コミュニケーション力、プレゼンテーション力などと言うと汎用的に聞こえますが、コミュニケーションの中でも裁判におけるディベートと看護師・患者間のやり取りでは全く違いますし、プレゼンテーションも企業の営業担当者と大学の研究者では目的が異なります。そう考えてみると、本当に汎用的な能力があるのかどうかも怪しくなってきます。新しい能力に関わる概念は知識重視への反省から生まれたものですが、能力重視が行き過ぎて知識の重要性がおろそかにされていないかは注意深く見ていく必要があります」

(次のページは それ自体が学習経験になるのが「良い評価」


*1: アンドレア・シュライヒャー氏のTEDでのプレゼンテーション
http://www.ted.com/talks/andreas_schleicher_use_data_to_build_better_schools?language=ja

 



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