「良いおもちゃ」とは何か〜岩城敏之氏に聞く

 幼児教育者はおもちゃの研究を

ーー岩城さんが若い頃に訪問されたドイツはボードゲームが盛んなことでも有名ですね。なぜドイツではおもちゃ文化が発達したのでしょうか。

「世界で初めてのキンダーガーデン(幼稚園)をつくり、積み木の原型を考案したフレーベルがいたことが大きいと捉えています。遊んで学習する、子どもの主体性を育てる、その中で世界の秩序を感じさせるといった考え方は、いずれも彼から出てきたものですね。ここから、経験主義的な教育方法や、子どもが主体的に学べるように学習/保育の環境を整える『間接教育』の流れが生まれ、幼児教育者がおもちゃについて研究する文化も根付いたのだと思います」

ーー幼児教育者、つまり幼稚園の先生や保育士の方がおもちゃを研究するのは、日本では一般的とは言えないですね。

「日本の幼児教育者の方々にも、おもちゃや遊びにもっと興味を持ってほしいです。最近になって、おもちゃについて研究している園が少し増えてきましたし、『おもちゃコーディネーター』や『知育玩具インストラクター』といった民間資格も登場しています。内容が充実するのはこれからだと思いますが、期待したいですね。私自身も、幼稚園の先生向けの講習会などを頻繁に行っています」

ーー岩城さんは海外の絵本の翻訳もされていますね。

「出版社の方に頼まれて翻訳しているうちに、11冊になりました。もともとはレオ・レオニの絵本『フレデリック』を読んで感動したのが、翻訳に携わるようになったきっかけです。この話では、夏の間はじっとして働かなかったフレデリックが、厳しい冬を迎えた時に、四季の豊かな情景をうたった詩で仲間たちを楽しませます。日本でより広く知られている『アリとキリギリス』で、夏の間遊んでいたキリギリスが冬になると締め出されて餓死してしまうのとは対照的だと感じました」

岩城さんが翻訳した絵本『メチャクサ』

岩城さんが翻訳した絵本『メチャクサ』

「ハンガリーを代表する音楽教育者の講演で、『ハンガリーの音楽教育の目的は、優れた一部の音楽家や演奏家を育てることではない。それを評価する人を育てることだ』と聞いたことがあります。万人に受けなくても感動する人がいれば音楽には価値がある、本当にその通りだと思います。私が翻訳した絵本『メチャクサ』も、その名の通り、めちゃくちゃくさいヘラジカが主役です。芸術家が生きていける社会、色々な生き方が許容される社会…それが、私が絵本を通して伝えていきたい社会のあり方です」

ーー子どもたちと実際に関わる時に、どのように遊んでいるかを聞かせてください。

「保育園や幼稚園、児童館などを訪問して、0歳から10歳前後までの子どもたちと関わる機会は頻繁にあります。私は子どもたちがよく遊んでくれていたら嬉しいですし、遊んでいる風景を見るのが好きです。子どもたちにたくさんの種類のおもちゃを貸し出して、基本的に遊び方は指示しません。子どもたちの感じ方、考え方、やり方を尊重して、子どもがどんな風に遊ぶか観察します。私にとっておもちゃの先生は子どもたちですから。私自身は遊び相手にならなくても、子どもたちに感謝されることが多いです。自分らしい幸せを、自由に・めいっぱい追求できたからだと思います」
(文:荒木勇輝、写真:吉田亮人)

【プロフィール】
岩城さんプロフィール写真岩城敏之(いわき・としゆき)
1956年京都府生まれ。同志社大学経済学部を卒業後、8年間の書店勤務を経て、絵本とヨーロッパの玩具を研究し、1987年に「えほんとヨーロッパのおもちゃの店ぱふ」(現・キッズいわき ぱふ)を開業。以来、同店を経営しながら、保育園・幼稚園・児童館などでの職員研修や、保護者向けセミナーの講師として全国を飛び回っている。『かしこいおもちゃの与え方―あふれるばかりのおもちゃの中で』(三学出版、2008)などの著書、『メチャクサ』(ジョナサン・アレン著、アスラン書房、1993)などの海外絵本の翻訳書多数。キッズいわき ぱふのウェブサイト:http://www.kidspuff.combanner3_1


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