「サドベリースクール」が追求する自由の形〜杉山まさる氏に聞く

 自分がやりたいことをハートに聞いてほしい

——託児施設や学童保育に関わった後にサドベリースクールを立ち上げておられますが、色々な経験をされる中で、なぜこれだと思ったのでしょうか。

「まず私自身が学校に通っていた頃から、この勉強は本当に将来役に立つのかな?と感じることが多かったですね。例えば、数学のこの数式は一部の人しか将来使わないんじゃないかとか。学校自体は好きでしたが、教育内容には疑問を持っていました。一度社会に出た後、自分は子どもが好きだなと思って、託児所で働きはじめました。託児所は子どもたちが伸び伸び過ごしているように見えますが、そこで働いていると、お昼の時間になったら嫌がっていてもご飯を食べさせないといけないなど、実は様々な制約があるのが気になりました。その後、学童保育でも働きましたが、自由に見える学童保育も同様に様々な制約があると感じました。そうした時にテレビでサドベリー・バレー・スクールの特集を観て、面白いなと思ったんです」

——学生時代も教育関係のことを勉強されていたのですか。

「実は全く関係のないところで、専門学校を出て、人工歯を作る歯科技工士の仕事をしていました。すごく意義のある仕事ですが、ある時に、この仕事じゃなくてもいいなと感じたんです。私が長男だということにも関係しているかもしれませんが、今振り返ってみれば、親や大人たちが承認してくれることを先回りして考えていたんですね。自分は手先も器用だし、高齢化社会だし、海外でも働ける仕事だし…理由を後付けして、自分が本当に何をやりたいのかをじっくりハートに聞いていなかったんです。年少の頃から自分のハートを大事にした方が良いという気持ちが、サドベリースクールにつながっています」

——現在の東京サドベリースクールの初期メンバーはどのように集まられたのですか。

「テレビ番組を観た後はすぐに調べてボストンにも見学に行ったのですが、一度は立ち上げに失敗しています。賛同者が4人いたのですが、みんな自分の仕事を持っていて集まるのが難しくなり、空中分解してしまいました。その後に作るより前に広める活動が必要だと思い、個人でホームページを作って地道に周知活動をしていましが、あまりうまくいきませんでした。今のスクールになるまでは、サドベリースクール関連の講演会に参加して、参加者同士で知り合い、初期の設立メンバーが集まっていったという形です」

東京サドベリースクールではサドベリースクールに興味を持つ人の見学も受け入れている

東京サドベリースクールではサドベリースクールに興味を持つ人の見学も受け入れている

——サドベリースクールを日本で広げるために、何が必要かを聞かせてください。

「まずは今いる子どもたちが幸せかどうかだと思いますし、彼らが大人になった時に自分たちは幸せだなと思ってくれるかどうかですね。卒業生が楽しく仕事をしている、結婚して子育てもちゃんとしているということになったら、社会的な認知度も変わってくるはずです。あとはやはり制度面ですね。既存の中学校や高校の卒業証明が出ないのは保護者の方にとってネックです。サドベリースクールに限らず、様々な教育方法のスクールを後押しするような法改正の運動にも関わっています」

(文:荒木勇輝、写真:吉田亮人)

【プロフィール】
杉山氏プロフィール写真
杉山まさる(すぎやま・まさる)
1980年静岡県生まれ。歯科技工士として働いた後、乳幼児の託児施設や、新たに開設した公設民営の学童保育所での勤務を経て、2009年4月に東京サドベリースクールを立ち上げる。設立メンバーとして同スクールの運営に携わるかたわら、オルタナティブスクールなどの普及に向けた法改正を目指す「多様な学び保障法を実現する会」の共同発起人としても活動している。
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