「闘うワークショップ」のつくり方〜上田信行氏に聞く

 ワークショップは評価できるか?

——ワークショップの評価はどのようにしておられますか。

「僕は昔『セサミストリート』の研究をしていて、NHKの教育番組『おかあさんといっしょ』の制作にも関わったのですが、そこでは実験的に制作した番組の一部を子どもに見せ、場面ごとに子どもたちが注視しているか・していないかを調査して、プロデューサーに修正のための情報を提供し、放送前に修正するという『フォーマティブ・リサーチ(構成的評価)』を取り入れていました。同じ発想で、ゴダイゴというロックグループと一緒に音楽工学という研究分野をつくり、コンサートなどの設計方法も研究しました。例えば2時間のコンサートの中で、どこでお客さんが盛り上がったかのデータをとってグラフにして、どういう曲順に並べたらもっと盛り上がるライブができるかを調べたんです」

「これに比べると、ワークショップの場合は一人ひとり得るものも違いますし、その人が2時間でどう変わったかを評価するのは難しいですね。だけど、全く評価をしていないわけじゃないんです。何を評価しているかというと、参加者の反応を通して、作り手側を評価しています。あのアイディアは刺さったか、あのワークは盛り上がったか、グルーピングは適切だったか、といった風に、デザインと運営の方法を省察していくのです。テレビ制作やコンサートデザインと同様に『フォーマティブ・リサーチ』で改善点を見つけ、次のワークショップをデザインしていく。これがワークショップの質を高めていくうえで最も大切な考え方なのです」

大学院生を対象にした授業の風景

大学院生を対象にした授業の風景

——フォーマティブ・リサーチについてもう少し詳しく教えていただけますか。

「フォーマティブ・リサーチというのは、モノやコトを作りながら、ユーザーやオーディエンスのフィードバックをもとに評価・改善し、そのサイクルをできるだけ短く何度も繰り返していくことです。これは手法というよりも姿勢と言ったほうが良いかもしれません。サンフランシスコに『エクスプロラトリアム』(*3)というサイエンスミュージアムがあり、そこは実験室的な発想をしています。企画展の場合、時間をかけて徹底的に案を練り、スタートしてからもお客さんの反応を見ながら展示を絶え間なく修正していくんです。日本の美術館や博物館ではこのような取り組みを見たことがないですが、本来はお客さんの反応によって内容が変わらないとおかしいはずです。完成というものはなくて常に修正していく、永遠のプロトタイプという発想が気に入っています」

——上田先生も奈良県吉野町で「ネオミュージアム」という学びをテーマにした私設のミュージアムを建設されていますね。

「僕はラーニングデザインの専門家だと思われていますけれど、実は僕自身が取り組んできたのは、ラーニングアートなんです。ラーニングアートとは何かというと、人を学びの楽しさに覚醒させる感動を作ることです。僕のワークショップには僕の『学びの哲学』が埋め込まれていて、参加者のみなさんに、『学びってこういう感じなのか』『楽しさの中に学びは溢れているのか』と感じてもらうことを目指しています。自分自身では教育学の研究者という意識はほとんどなくて、学びをテーマにしたアート活動を行っているつもりです。それを、学びのアートミュージアムであるネオミュージアムで実践してきたんです」

(次のページは 「教育界にはスターがいない」


*3: エクスプロラトリアムのウェブサイト http://www.exploratorium.edu

 



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