変わり者だった僕が社会起業家になった理由〜今井紀明氏に聞く

 

 最初は教室中がシーンとしている

——2012年春にNPOに専念するために退社しています。何が転機になったんですか。

インタビュー風景

「11年7月に通信制高校の熱心な先生に出会ったことです。『自分たちがニートを生み出しているんじゃないか』と悩まれていました。それまで僕は定時制と通信制の違いも知らなかったんですが、文部科学省が毎年発表している『学校基本調査』の結果を調べてみると、通信制高校の卒業生の2人に1人は就職も進学もしていないということが分かりました」

——通信制高校ではまず生徒を卒業させるのが第一で、進路選択までしっかり支援する余裕がないことが多いと聞いたことがあります。

「全体的に見ると、経営的に厳しい状況にある学校は多いと思います。学費が高い通信制高校でも、卒業時の進路未決定率が5割というところもあります。ただ、通信制高校は数が増えていて競争が激しいこともあり、何とかして現状を変えないといけないと思っている先生は多いですね」

「実際に生徒たちに会ってみて僕が感じたのは『自分と境遇が似ている・否定されている』ということでした。僕はイラク人質事件の後に色々な人にバッシングされましたが、彼らは同級生からいじめを受けたり、親から否定されたりして不登校を経験している。通信制高校の問題は絶対に解決しないといけないと思いました。そこで始めたクレッシェンドは、さまざまなバックグラウンドを持つ大人たちと継続的に話せる関係を作ることで、自分の過去や将来を自律的に考える力を身につけてもらうことを目指すプログラムです」

——キャリア教育プログラムを導入した通信制高校の生徒たちは、最初から積極的に参加してくれるものでしょうか。

「最初は緊張してほとんど話せない子や、他人に対する不信感を持っている子が多くて、教室中がシーンとしていることもあります。なんでこんな授業を受けないといけないの?というところからのスタートですね。でもうちはアイスブレイクに強いので、授業が始まれば初回からかなり盛り上がりますよ」

通信制高校の生徒たちが自主制作したフォトブックも販売している

通信制高校の生徒たちが自主制作したフォトブックも販売している

——通信制高校の生徒たちと社会人との交流を軸にしたプログラムですが、社会人の人選は難しいのではないですか。

「僕たちは高校生と関わる社会人や大学生ボランティアを『コンポーザー』と呼んでいるんですが、コンポーザーに求める基準は明確で、①否定しない、②年上、年下から学ぶ、③さまざまなバックグラウンドの人から学ぶ、という3つの姿勢を持つ人であることです。これはウェブサイトでも公開しています」

——高校生が実際の仕事を体験するインターンプログラムも実施されていますね。

「3ヶ月間のクレッシェンドで『何かやってみたい』というところまで生徒を持ち上げた後に、最大半年程度のインターンに参加させています。実際の仕事を通して成功や失敗の体験を積み重ねてもらい、困難に直面しても解決する力を身につけるのが目的です。旅館でのインターンや、PR会社でのインターンなど仕事の内容はさまざまですが、見違えるように行動的になって帰ってくる生徒もいますよ。今年10月には、キャリア教育プログラムに参加した生徒たちが自主制作したフォトブックの販売を始めました。全日制の高校と違う授業形態だからこそ、逆に可能性があるんです」

——通信制高校のことをほとんど知らない人も多いですし、インターンの受け入れ先を探すのは苦労しませんか。

「実は自分のつてのある企業などに協力してもらっているので、そこで苦労したことはないですね。ゼロから開拓するより、活動の趣旨に共感してくれる人がいるところにお願いする方が早いと思っています。もっとも、さらに活動が拡大すれば受け入れ先を探す必要が出てくるかもしれませんが」

(次のページは 「NSR」の考え方を広めたい

 



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