「堀川の奇跡」は他校で再現できるか〜荒瀬克己氏に聞く

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普通の公立高校だった京都市立堀川高校が、校舎建て替えと同時に「探究科」を設立したのは1999年。探究科の1期生が卒業した02年、国公立大学への現役合格者数を前年の6人から106人に増やし「堀川の奇跡」として注目された。地元ということもあり特に力を入れている京都大学には毎年30人以上の現役合格者を出すなど、その後も優秀な進学実績を上げ続けている同校は、文化祭など課外活動が盛んなことでも知られる。昨年まで校長を務めた荒瀬克己氏に、堀川高校の成功事例を他校でどのように生かせるかを聞いた。

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 最初から優秀な教員はいなかった

——堀川の奇跡という言葉が生まれて10年以上が経ちました。この間の成果をどのように評価していますか。

「総括するのは難しいですが、2つのことが定着したと思っています。1つは、批判的な評価も多かった公立高校が、教職員の頑張り次第で変われると認めてもらえたこと。もう1つは、堀川が取り組んできたような『課題探究型』の学習が、大学入試と矛盾しないものだと理解してもらえたことです」

「この2つ目については、実は私たちも本当に成果が出るか半信半疑でしたが、教職員の努力に生徒が応えてくれました。今では京大の合格者数のような進学実績を理由に堀川を志望する生徒もいますが、実際に入学して課題探究型の学習をやってみると、面白いと感じてくれる人が圧倒的に多いです」

——堀川では「探究基礎」(*1)と呼ぶ課題探究型の学習を1年半かけてやっていますね。生徒に対してかなり辛口でコメントすると聞きました。

「面白さもしんどさも経験してほしいですから、個人研究の計画書を作る時はかなりのやり取りをしますね。最初にしっかりした計画を立てておけば、実験結果が思ったのと違うとか、天候のせいで実験ができなかったとか、そういった不都合が生じても良い経験になります。学習の目的は必ずしも研究者を育てることではなく学び方を学ぶことで、コミュニケーション能力や分析力、批判的思考力を身につけることですから」

「例えば『地上100mにおける窒素酸化物の状態』を調べようとしたある生徒の場合、予備実験で高層ビルを所有する企業に屋上を使わせてほしいと頼みましたが、安全上の理由で断られ、結局30mほどのビルで実験を重ねました。本実験では京都大学の気球を貸してもらう予定だったのですが、直前に気球が壊れてしまいました。彼女は予備実験のデータしか入手できませんでしたが、発表会では言い訳もせず、非常に爽やかに自分の立てた仮説と研究成果を説明してくれました」

——99年に始めたころと今とを比べて、内容は変わりましたか。

「生徒がより高度な内容に挑戦できるようになりました。02年にSSH(*2)の指定校になったのは大きかったですね。まず、いただいた予算で実験用の機材が揃いました。指定校になると申請書や報告書を作るのは大変ですが、常に外部評価を受けるので、教員の姿勢も変わりました」

——堀川には優秀な教員が多いと言われていますね。

「最初からすごい先生がいたわけではないですよ。堀川ではSSHの予算の使い方に特徴があって、それは大学の先生に授業をお願いしなかったことです。正確に言うと、02年に一度だけ来てもらいました。本物の研究者の話を聞けて生徒はすごく喜びましたが、私たちはこれではいけないと思いました。非日常で本物にふれることができても、日常は相変わらずの授業ですし、予算が切れたら大学の先生はもう呼べません。専門知識ではかなわなくても、教員自身が本物になろうと努力し続けるべきです」

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*1 1年生は週3コマ分の授業で、問題解決や議論・スピーチの方法、パソコンソフトの使用法、情報の読み方や研究の仕方などを学ぶ。2年生はテーマを決めて半年間の個人研究を行い、研究成果をポスターにまとめて発表する。発表会では発表者がポスターの前に立ち、研究内容に関心を持った他の生徒が自由に質問できるようにしている。

*2 スーパーサイエンスハイスクールの略称。文部科学省所管の独立行政法人、JSTが先進的な理数教育に取り組む高校を支援する事業

 



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