「食えるアーティスト」をどう育てるか〜椿昇氏に聞く

妙心寺退蔵院の「お抱え絵師」として襖絵を制作する村林由貴さんも椿氏に師事している

妙心寺退蔵院の「お抱え絵師」として襖絵を制作する村林由貴さんも椿氏に師事している

 教える側は自分の信じることを垂れ流せ

——創作には熱心でも、アートの売り方や流通には関心のない人も多いのではないですか。

「新しい食い方をデザインしようと思っている。今考えているのは、大原女(おはらめ)みたいな絵の曵き売り。僕らがいいと思う学生の絵を安く買ってきて、大八車で市役所の前に売りに行く。もちろん僕も大八車を曵くし、名和晃平とかヤノベケンジとか(*3)、そうそうたる奴らに一緒にやってもらう。10年経つと「3000円で買った絵が800万円で売れた」みたいな大当たりが出てくるわけです。そういう、アートの経済構造を変えることをやりたい」

——芸大で教えていて、今言われたようなことが響く学生はどれくらいいますか。

「100人いたら5人くらいかな。その時は分からず、35歳くらいになって響くこともある。『今ごろになって先生の言っていた事が初めて分かりました』とかね。今理解するかしないかは別にどうでもいい。僕が女子校の美術教師をやっていた時は、授業でギリシャ神話や哲学の話をすることもあった。教える側としては、自分が信じることを言い続けること、垂れ流していくことが大事だと思う」

「今の若い子は賢いと思う。バカみたいにものを買うおやじ世代と違って、古着とか上手に買って、低エネルギーで上手に暮らしている。面白いプロジェクトの話を聞いたのでバイトを全部キャンセルして来ましたとか、そういう嗅覚を持った子もいる。あとは行動を起こすかどうか、それだけでしょう」

——「食い方のデザイン」に対する感度も上の世代に比べて高いのでしょうか。

「シェアする感覚というか、自分の能力は限られているから一緒にやっていくのがいいという感じはある。うちの大学の『ねぶた展』(*4)では、23基のねぶたを全学科の学生が10日間で作った。彫刻とか、デザインとか、将来必ず一緒に仕事をすることが出てくるし、ここで知り合った奴らが会社を起こすかもしれない。今の日本の社会が機能分化しているのは問題だと思う」

(次のページは 野山で遊んでそのまま大学に来て


*3 名和晃平は京都を拠点に活動する現代美術家。ビーズなどの現代的な素材を使った空間表現を得意とする。関連ウェブサイト「SANDWICH」http://sandwich-cpca.net/index.html
ヤノベケンジは大阪・京都を拠点に活動する現代美術家。代表作に東日本大震災からの復興をテーマにした巨大な人形「サン・チャイルド」がある。関連ウェブサイト「ヤノベケンジアートワークス」http://www.yanobe.com/index.html

*4 青森のねぶた祭をモチーフに、学生が角材や和紙などを使って巨大な造形物を制作した。

 



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