世界の教育の潮流「新しい能力」とは〜松下佳代氏に聞く

 意外と浅い? PISAリテラシー

——PISAリテラシーと21世紀型スキルには共通する部分もあるように思いますが、どのように違うのでしょうか。

「2つの概念はよく似ていて、考え方としてはかなりの部分が重なっていますよ。あえて違いを挙げるとすれば、21世紀型スキルではITスキルが重視されている点です。これは、マイクロソフトやインテルなどのIT関連企業が資金的にバックアップしているということもありますし、米国の社会自体がITを重視しているということもあると思います」

「ただ、これまで紙ベースの調査だったPISAも、次回の2015年からすべてコンピュータベースになり、その中に協調的問題解決(Collaboratibe Problem Solving)という分野が入ることが決まっています。コンピュータの画面上にエージェント(キャラクター)を登場させ、それと協力しながらある問題を解決するように学習者に求めるものです。そのような形になると、PISAリテラシーと21世紀スキルとの違いはだいぶ狭まってきますね」

——PISAには、深く考えさせることを目指す問題が多いように感じます。

「それはどうでしょう。たしかに問題文は凝っていて深いテーマを含むものが多いのですが、答えを出すのに求められる能力は意外に浅いというか、単純な問題も少なくないんです。例えば温暖化に関する問題(*1)では、二酸化炭素の排出量のグラフと平均気温の変化のグラフがあって、太郎さんは『二酸化炭素の影響で温暖化している』、花子さんは『そうとは限らない』と主張しています。その根拠を示すという問題ですが、2つのグラフの形が一致していない箇所を指摘すればよいだけでした」

「PISAの調査結果を見ると、読解力はすべての国で女性の方がスコアが高く、数学的リテラシーはほとんどの国で男性の方がスコアが高くなっています。科学的リテラシーにはそのようなはっきりした傾向が見られません。実は、PISA以外の国際的なテストでは、科学は男性の方が良い場合が多いんです。PISAの科学は問題文が長く、読解の要素が入ってくるからかもしれないですね」

——PISAリテラシーについては批判的に見ているのでしょうか。

「PISAの影響力が高まるにつれて、PISAの順位を上げることを目的にするような国が増えてきていること、またOECD自体がそのような傾向を助長していることについては、批判的な立場をとっています。温暖化に関する出題例から分かるように、必ずしも『能力』を適切に判定できるものではないですし、PISAのテストにおける『知識』の扱いにも問題があると思っています」

(次のページは 教育における能力偏重の問題点


*1: 国立教育政策研究所「PISA 調査問題例」のp.20-22に実際の問題が掲載されている
http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/pisa2012_examples.pdf

 



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