「住職の学校」に見るニッチ教育の可能性〜松本紹圭氏に聞く

松本氏トップ写真

「未来の住職塾」という名前を、お寺の関係者の方なら一度は聞いたことがあるかもしれない。インドに留学してMBA(経営学修士)を取得した浄土真宗本願寺派の僧侶・松本紹圭氏らが2012年に始めた、お坊さんに経営の視点を伝える教育サービスだ。全国の主要都市で開催され、若手の僧侶を中心に年間100人前後が受講している。「仏教界の起業家」を自認する松本氏に、ニッチ教育の可能性と課題を聞いた。

 お寺を変えたくてお坊さんになった

——今年で3年目になる「未来の住職塾」について、まず始めた経緯を聞かせていただけますか。

「そもそもなぜ仏門に入ったかにさかのぼって説明しますね。私は北海道の生まれで家はお寺ではないのですが、祖父が近所のお寺で住職をしていたので、小さいころからよく遊びに行っていました。その当時から、お寺は好きだなと感じる一方で、もっと頑張れば色んなことができるのにもったいないなという思いがありました。大学では東京に出てきて、思想哲学系に興味を持って勉強していました。就職活動をする中でもどこかでお寺のことが引っかかっていて、じゃあいっそお坊さんになってみようと。ひとことで言えば、最初からお寺を変えたくてお坊さんになりました」

——お坊さんになってから住職塾を始めるまでの間にも様々な活動をされています。

「最初に入ったのが神谷町光明寺(東京都港区)というお寺です。そこで弟子入りして、一人前になるために日々のお勤めをするというのはもちろんですが、住職がすごく理解のある方で、色々なことにチャレンジさせてもらいました。お寺カフェの『神谷町オープンテラス』(*1)であったり、インターネット上の寺院『彼岸寺』(*2)であったり、新しいことをやってみて反響も手応えもありました。でも、お寺は全国に7万以上あり、私がそのお寺でいくら頑張っても7万分の1でしかない。点ではなく面での取り組みにするために、住職の学校を作りたいと思いました」

——宗派によると思いますが、仏教系の大学や、修行道場などはすでにありますよね。

「私自身も通過しましたが、お坊さんの教育プロセスは、まず得度(出家)して、これをやれば住職の資格が得られる、これをやれば布教師として認定されるといったことが決まっています。でもお寺をどうするかということを学べる教育プロセスはありません。世襲のお坊さんだと、自分の家で生まれ育って、宗門系の大学で仏教を学んで帰ってきますが、そこで待っているのはお寺をどう経営するかという問題です。ほとんどの場合、参考になるのは『親父の背中』しかない。もちろん立派な背中もありますが、時代環境が変わっていて同じやり方ではうまくいかないということも少なくありません。いずれにせよ、学びの材料が少ないのはまずいと思いました」

「よく考えてみると、仏教の何たるか、宗祖の教えが何たるかは宗派によって違うんです。でもお寺の運営はあまり宗派に関係ない。日蓮宗であろうと浄土真宗であろうと、お檀家さんがいて、お墓があって、お坊さんが掃除をして、法事があって…と基本的な仕組みは変わりません。運営という切り口で横串をさせば、宗派にかかわらず同じベースで学びの場を作れるんじゃないかと考えたのがはじまりです」

松本氏が所属する浄土真宗本願寺派の総本山、西本願寺(京都市下京区)

松本氏が所属する浄土真宗本願寺派の総本山、西本願寺(京都市下京区)

——MBAを取得して経営の視点を伝えるというアイディアにどうやって辿り着いたんですか。

「学校という形にするなら方法論を作る必要があります。それまで手探りで色々な取り組みをしてきましたが、当時の私には方法論に落とし込むスキルはなかった。色々な知人と相談している中で『それは結局のところお寺の経営の話になるから、MBAを取得してはどうか』とアドバイスを受けたのがきっかけになりました。せっかくなら仏教にゆかりのある国が良いと思い、インドのビジネススクールを選びました。目的意識も明確でしたし、1年間必死で勉強しました」

(次のページは 「アーリーアダプター」は一巡?


*1 神谷町オープンテラス:神谷町光明寺の本堂前のスペースを活用したお寺カフェ。冬季を除いて飲み物や菓子を提供しており、事前に予約すると僧侶と話をすることもできる。
*2 彼岸寺:「超宗派仏教徒によるインターネット寺院」をうたったウェブサイト。様々な宗派の僧侶が共同で運営し、お寺の関係者によるブログなどを連載している。
ウェブサイトURL http://higan.net

 



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