「エビデンスベースト」が日本の教育を変える〜中室牧子氏に聞く


 家庭環境と遺伝以外の部分で何ができるか

——家庭環境が学力に与える影響はどの程度あるのでしょうか。

「子どもの学力の決定要因は何かを考えた時に、家庭環境と遺伝の影響は大きいと言われています。最近の私たちの研究では、遺伝が学歴に与える影響は27〜35%と推定され、家庭環境も合わせるとかなり大きな割合を占めることがわかっています(*1)。教育政策を打つ側はこれらの影響が少なからずあるということは把握しておかなければいけないし、家庭環境と遺伝の残りの部分のどこに集中的に投資するかを決めないといけません」

「遺伝はいかんともしがたいですが、家庭環境が担っている部分をどう変えるかも重要だと思います。最近は厚生労働省の『21世紀出生児縦断調査』という統計を使って、2001年に生まれた子どもたちの追跡調査を用いた研究をしています。例えば、親のどういったコミットメントが学習時間を伸ばせるか。子どもの学習時間と学力にはすごく強い因果関係があって、学習時間を伸ばしてやると学力を伸ばしてやれるんですよ」

——具体的にはどういったコミットメントが効果的なのですか。

「もともとはテレビやゲームをやめさせると子どもの学習時間は伸びるのかを調べていたんですが、結論としては伸びないことが分かりました。学習時間を伸ばすために効果的だったのは、子どもが勉強するのを横で見守るというコミットメントでした。しかも面白いことに男女差があり、母親に比べると、父親が横で勉強するのを見てやるのは効果が高い。一方、両親ともに、勉強するように言う、というのはほとんど効果がなく、時に逆効果にすらなる時があることがわかりました」

——後者の効果が薄いのは多くの人が実感している気がします。親以外の人になると効果は変わるのでしょうか。

「いえ、父親や母親以外の大人でも統計的に有意な差はありません。例えば学校での放課後学習でボランティアの大学生でも同じことをしても効果が期待できると思います。いずれにせよ子どもの横について勉強するのをみていないといけませんから、ある種の自己犠牲的なコミットメントが必要だと言えます」

子どもの勉強に対する両親の関わり(出典)Nakamuro et al (2013)

子どもの勉強に対する両親の関わり(出典)Nakamuro et al (2013)

——もし大人が横で勉強をしている場合も同様の効果が得られるなら、自己犠牲にならなくて済みそうですね。

「それは面白い論点ですね。もう少し細かい統計があると良いのですが、もともと厚生労働省の統計なので子どもの医療や少子高齢化と関連する項目が多く、その中で教育経済学の研究に使えるものを私たちがピックアップして使っているという感じです。今後、親のコミットメントの選択肢を増やしてもらえれば、もっと面白い研究ができるのですが」

——慶応大学の赤林英夫教授が少人数学級の効果に関する研究を発表されていますが、それも既存の統計を活用したものですね。

「赤林先生の研究は、横浜市への情報公開請求を通じて市内の学校の全国学力テストの結果を開示してもらい、それらのデータを分析したものです。日本では先ほど米国の例で出したような社会実験がなかなかできないので、研究者は苦労しながらデータを集めています。もちろん、分析のためには学力テストのほかにも生徒の個人情報が必要なので、学校がこうしたデータの公開に消極的なのは理解できますが、最近では、個人情報をマスキングし、適切に保護しつつ、政策的に価値の高い研究をすることが可能になっています。このことを学校や自治体に広くご理解いただきたいと思っています」

(次のページは 教育の社会実験ができる研究所を作りたい


*1:山形 伸二 (九州大学) 、中室 牧子 (慶應義塾大学) 、乾 友彦「Inequality of Opportunity in Japan: A behavioral genetic approach」(2013)
URL: http://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/13110013.html
*2:中室 牧子、松岡 亮二 、乾 友彦「子どもはテレビやゲームの時間を勉強時間とトレードするのか-小学校低学年の子どもの学習時間の決定要因-」(2013)
URL: http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/13e095.html

 




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