アクティブ・ラーニングをどう評価すべきか〜西岡加名恵氏に聞く

 評価という言葉のネガティブなイメージを変えたい

教科書

ーー西岡先生自身はどういった思いからパフォーマンス課題の普及に取り組んでおられるのですか。

「実は私も中高生の頃は社会科が嫌いで、歴史上の出来事などを泣きながら覚えていました。でも、大人になってみると社会の学習は一問一答などでは全くなく、奥深いものだと分かりますよね。勘所をつかむのがうまい子や、たまたま良い先生に巡り会った子だけでなく、より多くの子に表面的ではない深い理解に到達してほしいと思うんです。もう1つ、私は広島出身で平和教育を受けてきたのですが、『平和を守らないといけない』というメッセージを以前は純粋に受け入れていました。でも、平和とは何かを本当に深く理解し、平和のために私たちが何をすべきかを決めるには、様々な立場にたって考える力や、抽象的なものと具体的なものとの間を行き来して物事の構造を捉える力が必要だと思います。そうした感覚が、私がパフォーマンス課題を支持する根底にあるような気がします」

——本質的な問いを考えるにあたっては、教員の力量も問われそうですね。

「教科教育では流派というか、先生によって本質的だと考える点が異なることもありますね。国語であれば、人間理解を深めることを重視する方と、言語技術を身につけることを重視する方がおられますし、数学でも、実際の社会で役に立つことを伝えたいのか、数式などの美しさを伝えたいのかで問いの立て方が変わってきます。もちろんどちらも国語や数学の学習全体を貫くテーマになり得るものですし、いずれにせよ本質が何かを徹底して考えることが重要です。パフォーマンス課題を設計するコツをつかむまで時間はかかりますが、実際に指導をして生徒の理解が深まったことを実感されると、ほかの方法では満足できない、と先生方はおっしゃいます」

——多くの学校で教員の長時間労働が課題になっている中で、アクティブ・ラーニングやその評価のためにさらに負担が増えるのではという懸念もあります。

「たしかに、私が知っている中学校の先生からも授業以外に部活動の指導や報告書の作成などに追われてほとんど休みがとれないという話を聞きますし、教員の勤務状況は改善しないといけない問題です。ただ、生徒たちに学習課題を与え、評価・改善しながら学力を伸ばしていくことは、本来、先生方の仕事の中核と言える部分です。それが忙しくてできないなら他の仕事を見直すしかありません。現場の先生方がパフォーマンス課題の実践に意欲的に取り組める条件を整えるためには、教員が余計な雑務に追われないよう校長先生がマネジメント力を発揮するといったことも重要になります」

——最後に、教育評価の質を高めるために何が必要かを聞かせてください。

「学校現場では評価というと労力のかかる書類作りと受け止められがちで、評価という言葉自体にネガティブなイメージを持たれていることが少なくありません。教員の方向けに講演をして、終了後に『評価について話されるとイヤになる』と言われたこともあります。ですが、一般社会では『評価してもらえない』ことがネガティブで、『評価してもらえる』ことはポジティブな意味で使われますよね。何のためにしているのか分からないような評価はやめて、生徒の学習意欲にもつながるような実質的な評価に絞るべきです。先生が生徒全員にできてほしいことを徹底して考えて、その目標を達成するために生徒たちと一緒になって頑張っていく、そんな学校を少しでも増やしたいと考えています」
(文:荒木勇輝、写真:吉田亮人)

【プロフィール】
西岡先生プロフィール写真西岡加名恵(にしおか・かなえ)
1970年広島県生まれ。京都大学大学院教育学研究科修士課程を修了後、英バーミンガム大学でPh.D.(Ed.)を取得。鳴門教育大学講師を経て2004年から現職。昨年度は約20校でパフォーマンス評価に関する共同研究を行うなど、各地の学校や教育委員会と連携してカリキュラムや教育評価の改善に関わっている。また、京都大学大学院教育学研究科教育実践コラボレーション・センターのE.FORUM(教育研究開発フォーラム、http://www.educ.kyoto-u.ac.jp/e-forum/)などで教員向けの研修にも精力的に取り組んでいる。文部科学省「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」委員(2012年12月~2014年3月)なども務める。編著に『新しい教育評価入門―人を育てる評価のために』(有菱閣、2015)、『「逆向き設計」で確かな学力を保障する』(明治図書、2008)、単著に『教科と総合に活かすポートフォリオ評価法―新たな評価基準の創出に向けて』(図書文化、2003)などがある。
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