「良いおもちゃ」とは何か〜岩城敏之氏に聞く
おもちゃに権威はいらない
ーー岩城さん自身のおもちゃ観について、さらに詳しく聞かせてください。
「私はおもちゃと呼ばれるものを5つに分類しています。1つ目は『お土産』。これは先ほど話したように、私たち日本人の発想です。2つ目は『クラフト』。手作りの木工品などですね。ひな人形などがここに入ります。それから『教材』と『教具』。教材は、何かしらの教育目標を達成するための道具です。例えば折り紙でかぶとを折りましょうという時に、紙飛行機を作って飛ばすと怒られます。教具も、子どもが選ぶ自由はありますが、ある教育目標のために設計されている点は同じです」
ーー折り紙自体は、教材として使われるとは限りませんよね。
「そうです、折り紙を丸めている、あるいは折り紙をやぶっている。そうした時に私たちは『折り紙をおもちゃにしている』と言いますよね。子どもたちが、自分に与えられた能力をめいっぱい使って幸せを追求するための遊び道具。おもちゃと呼ばれている5つのもののうちの最後、私が広めたい『おもちゃ』とは、まさにそういうものなんです。子どもが選んだ対象物であれば、地球すべてがおもちゃになり得ます」
「一方で僕は、遊びとしつけの区別も大事にしています。いくら自分がやりたいことでも、人に当たったらケガをするものを投げたり、ほかの人が大事にしているものを叩いたり、人の迷惑になることをしてはダメです。自分がやりたいことを、人の迷惑にならないようにやる。そのように、遊びとしつけを両立するためにおもちゃがあるのだと思っています」
ーーこれなら投げてもいいよ、叩いてもいいよ、ということですね。
「その子が面白いと思うことを尊重して、自分のしたいことがめいっぱいできるようにしてあげる、それが良いおもちゃだと言うこともできます。自分らしい人生を生きていくための『遊び道具』ですね。大人の趣味にしても、車でドライブするのが好きな人、釣りが好きな人、料理が好きな人、色々な人がいて当たり前じゃないですか。それなのに、おもちゃに関しては『幼児教育に詳しい人が良いと言っているから良いおもちゃだ』というように、他の人の意見に左右される人が多いように思います」
ーー教育評論家が紹介しているとか、子育て関連の雑誌に載っているとか、たしかに専門家の評価は気になるかもしれません。
「おもちゃに権威はいらないんですよ。大切なのは、目の前にいる子どもとどう向き合うかです。例えば幼児教育の世界には、ピアジェやモンテッソーリといった歴史上の偉人がいますが、『ピアジェやモンテッソーリがこう言っているから、その通りにしよう』と考えるのではなくて、『ビアジェやモンテッソーリが今生きていたら、目の前の子どもたちに対してどう振る舞うか』を想像して、実践することが大事なのだと思います」
ーーおっしゃる通りだと思います。ただ、保護者の立場からするとかなりハードルが高そうですね。
「多くの保護者、特に初めて子育てに取り組む親は、発達に関しては素人です。本来、子育てはお母さんとお父さんだけでなくみんなでするものだと思うのですが、多くの母親がそれを一人で抱え込んでしまっているところに今の日本の不幸があります。日本は資源に乏しく、人材育成でもってきた国なのですから、昔の日本人がやってきた子育てに倣うべきところも多いのではないでしょうか。私個人の感覚としては、子育てについて昔から言われていることの8割くらいは適切だったのではないかと思っています」
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