「反転授業」と「MOOC」の根本的な違いとは〜加藤大氏に聞く


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「反転授業」と言えば、最近の教育業界で頻繁に取りざたされているキーワードの1つだろう。一方でこの言葉はバズワード(曖昧な流行り言葉)のようになっており、その仕組みや意義について明快に語れる人はまだ多くはないようだ。大学や短大・専門学校向けに反転授業の導入支援事業を手がける株式会社ファカルタス事業戦略室長の加藤大氏に、反転授業の本質について聞いた。

 レベルの高くない大学に向いている?

——まず反転授業の定義について教えてください。

「米国では”Flipped Classroom”と呼ばれ、Middle SchoolやHigh Schoolの先生たちが現場で試行錯誤する過程で広まっていきました。大まかな定義は『講義を宿題としてオンラインで視聴させ、教室で演習を行う授業』です。『教室で講義し、演習を宿題にする』という従来の授業形態を『反転』させたわけですね。演習にはテスト、ディスカッション、プレゼンテーション、グループワークなど様々なパターンがありますが、同じ時間、同じ空間に集う教室に学習者の表現活動を集約し、学習意欲を高める狙いは共通しています」

——日本で注目されるようになったのはここ1〜2年のことですね。

「米国で導入が進んだのもYouTubeなど動画配信サービスが普及し始めた2007年以降です。私は2012年に『カーンアカデミー』の創始者、サルマン・カーン氏のTED(*1)を視聴し、同じ頃に雑誌『WIRED』の“未来の学校”というタイトルの特集号(*2)を読んで、『日本の大学教育に最適ではないか』と直感しました」

——従来の授業方法と比較して、どういった効果が期待できるのですか。

「反転授業の効果の1つに『相乗的な学習の動機づけ』があります。パフォーマンスの高い学生は授業中、他の人にそれを見せたり、教える側に回ってクラス全体の学力向上に貢献したりできます。逆に宿題をやっておらずパフォーマンスの低い学生は教室で恥ずかしい思いをしたり、自分も頑張ろうという気持ちが芽生えたりします」

「また、宿題をeラーニングシステムで管理すれば、『何時から何分間、宿題動画を視聴したか』という授業外の学習行動を把握できます。教室内・教室外を問わず、従来の授業形態と比べて学生の学習行動の質・量を判断する情報が圧倒的に増えるわけです。演習形式の授業やeラーニングシステムの管理を継続すれば、教員は学生一人ひとりの顔と名前が分かるようになり、学生同士の関係も深まります。こうした教員に対する親近感、クラスに対する帰属意識が生まれるのも反転授業の特長です」

——米国の中学校・高校で始まったとのことでしたが、なぜ日本では大学なのでしょうか。

「米国の大学は日本と比べて単位認定が厳しいため、学生の教室外の学習を良くも悪くもコントロールでき、動機づけの面で工夫する必然性がないのではないでしょうか。一方、Middle SchoolやHigh Schoolでは日本の中学校・高校以上に校内格差があり、学力の低い生徒の底上げが優先的な課題となる傾向が強いようです。Flipped Classroomは、導入の結果として出席率や落第率が劇的に改善したケースが出てきたことで注目されました」

「一方、日本の大学では総じて学生の学習意欲が低いのに、講義型の授業を続けている状況はあまり変わっていません。高校生の約半数が大学に進学する時代ですし、昔と変わらない講義をしていたら、スマートフォンやDSに熱中したり、私語や立ち歩きをしたりする学生が出てくるのも仕方ないと思います。報酬以外の動機づけで学習意欲を高める仕組みとして、反転授業は相対的に優れています。その特長が、意欲の低い学生も多く抱えている日本の大学の現状にこそ最適と考えました」

——動画を視聴するという宿題を学生たちはきちんとやってきますか。

「私が支援している大学で、宿題をしてくる割合が7割を切ったことはないですね。eラーニングシステムの学習履歴をチェックすると、授業直前の電車の中などでスマートフォンで視聴していると推測される学生がかなりいます。こういった『にわか学習』の学生は、やはり演習ではうろたえがちです(笑) 数少ないとはいえ、宿題をしていない学生は授業を欠席しがちですので、欠席した次の授業への出席を促す何らかの工夫が必要になります」

——日本の大学でも反転授業の導入によって数値的な効果が出ているのでしょうか。

「たとえば2013年8月開催の学会(*3)で発表された、千歳科学技術大学のケースは標準偏差の大幅な改善を報告しています。反転授業導入の前後で中間テストの点数を比較したところ、最高点は変わらずとも最低点が大幅に向上し、「技能を問う問題」では0.3ポイント、「知識を問う問題」では5.0ポイントも標準偏差の値が小さくなっています。2013年度に始めた大学がその導入成果をそろそろ公表し始める時期なので、2014年中に定量的なエビデンスは増えていくはずです。

(次のページは MOOC(ムーク)と反転授業はどう違う?


*1: サルマン・カーン氏のTEDでのプレゼンテーション「ビデオによる教育の再発明」
URL: http://www.ted.com/talks/salman_khan_let_s_use_video_to_reinvent_education?language=ja
*2: WIRED(2012年10月号増刊)
URL: http://www.amazon.co.jp/WIRED-VOL-5-GQ-JAPAN-2012年10月号増刊/dp/B008IWXLBC/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1396325990&sr=8-1&keywords=WIRED%E3%80%80VOL.5
*3: 私立大学情報教育協会 ICT利用による教育改善研究発表会(2013/8/10)

 




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