「闘うワークショップ」のつくり方〜上田信行氏に聞く

上田氏トップ写真

親子向けの教室から学生・社会人の交流イベント、企業の従業員研修まで、さまざまな場所で開かれている「ワークショップ」。しかしながら、ワークショップの定義を聞かれて即答できる人は少ないかもしれない。この言葉が一般に知られていなかった1990年代からワークショップを実践してきた同志社女子大学現代こども学科の上田信行教授に、ワークショップを設計する際の考え方について聞いた。

 最大の変数は参加者

——ワークショップの第一人者として、いつも先進的なワークショップを実践されていますね。

「家族でポーズをした写真を撮って、レゴブロックでアニメーションをつくる『BRICK3.0』(*1)などの最近のワークショップを見ていただければ、僕のワークショップの雰囲気を掴んでいただけると思います。参加者にどんなステージ(舞台)を提供するかをいつも考えているんです。学校の教室では先生が立っている場所がステージですけど、そこに子どもたちが立つようになると、学びがインプットからアウトプットにシフトし、学びの風景が変わります。ワークショップでも、参加者がパフォーマーになったり、オーディエンスになったりして循環していく。そんな情景が素敵だなと思います」

——私も上田先生のワークショップに参加したことがありますが、参加者全員が音楽に合わせてパフォーマンスをし、それを繋ぎ合わせてショートムービーを作成するという内容でした。

「それもまさにステージをつくって、参加者にパフォーマーになってもらっているんです。僕はロシアの心理学者・ヴィゴツキーの『発達の最近接領域』(*2)という考え方を学びのデザインに当てはめて『憧れの最近接領域』という考え方をつくりました。ひとことで言えば、憧れの人や場に近づくと憧れが実現するという考え方です。例えばジャニーズで言えば『嵐』の後ろでジュニアの男の子たちが踊っていますね。この『嵐』と一緒にその場にいるという興奮が彼らのモチベーションをかきたて、生き生きとさせているんだと思います。『孟母三遷』の話でも、お母さんが孟子を賢い人の近くに住ませようとしますよね。憧れの人、憧れの職業、憧れの場所、僕は会った人みんなに憧れのそばに行きましょうと言っています」

——誰もやったことがないようなワークショップを設計する際に、どんなことを意識されていますか。

「空間や道具や活動にものすごくこだわります。『神は細部に宿る』と言うように、会場のレイアウトやツール、スタッフのふるまいなど、一つひとつのディテールが命だと思っています。また、このようにワークショップを構成する要素は色々ありますが、最大の変数は参加者です。参加者がどんな方かは当日に会場でお会いしないと分からないので、プランをあまり決めすぎると修正がきかなくなってしまう。前もって段取りや進行を考える人が多いようですけど、僕は本番の直前まで、このワークショップの本質は何なのかをとことん考え抜きます。本質を理解していれば、どんな方々が来られても状況との対話が可能です。その場で感じたことに従う、これが僕が大切にしているマインドですね。すべてはsituated(状況次第)なんです。そしてFollow your heartといわれるように、気持ちのいい、感じのいい方へ向かいます」

——テーマがしっかりあるけれど即興性も重視するという感覚は、音楽で言うとジャズに近いですね。

「そうですね、ワークショップやティーチングの本質はジャズかもしれません。僕の知り合いのミュージシャンは、ジャズとは手法だと言っています。私はジャズの手法で音楽もやるし料理もやるし、人生もそうだと。僕はその一方で『学びはロックンロールだ!』と言い続けているんです。揺さぶり、憧れをあおり、既存概念をクラッシュさせる。今ある世界を変えたい、ロックしたいという姿勢が好きなんです。ワークショップという方法はジャズで、その心はロックですね。欲張りかもしれませんが(笑)」

——例えばマニュアルに沿ってコーヒーの淹れ方を教えるとか、予定調和的なものはワークショップとは言えないですか。

「はい、僕にとっては。皆さんこれ作ってください、できたら次はこれをやってください…というワークショップも多いですけど、一緒に体を動かしたり何か作ったりするのは本質ではないと思うんです。リスキー(冒険的)で、クレイジー(情熱的)で、セクシー(本質的)なワークショップをやろうぜ!と言っています(笑)。参加する人も主催している人も、本気になって、リアルタイムで刻々と変化していく状況を楽しむ、そういうのが理想です」

——単なる気晴らしではなく、人が成長のきっかけを得る場所だということですね。

「1週間仕事して精神的に疲れたからワークショップでも行って元気をもらおうか、というのは何か違うと思うんです。ワークショップを通して多くの人や考え方に出会い、自分の感覚が揺さぶられて、境界が広がって、明日からの仕事に前向きに取り組めるようになる。それがないと、結局は何も変わりません。僕の友人の中京大学の宮田義郎教授は、『ワークショップの究極の目標は、ワークショップがなくても大丈夫な世界を作ること』と言っています」

(次のページは ワークショップは評価できるか?


*1: ワークショップ「BRICK3.0」 https://www.youtube.com/watch?v=EnXGXNHzVbE
上田氏が近年実践してきた、新しい学びの形を目指す一連のワークショップは「School3.0」というFacebookページでも紹介されている。 https://www.facebook.com/learningthroughlove
*2: ヴィゴツキーの理論については次の著書に詳しい。「発達の最近接領域」の理論―教授・学習過程における子どもの発達

 



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