「サドベリースクール」が追求する自由の形〜杉山まさる氏に聞く

杉山氏インタビュー写真

授業もテストもクラスもない学校「サドベリースクール」をご存知だろうか。子どもたちの自主性を尊重し、学費の決定やスタッフの採用/罷免を含めた運営にまですべて子どもたちが関わるという。どのような子どもたちが通い、どのように育っていくのか。東京サドベリースクール設立メンバーの杉山まさる氏に、サドベリースクールの教育理念について聞いた。

 ダンゴムシを一日中見ていてもいい

——まずサドベリースクールがどのようなものかを教えてください。

「米国のボストンで1968年に創設された『サドベリー・バレー・スクール』が始まりです。一般の学校とは違った教育形態を持つオルタナティブスクールの一種で、授業もテストもクラスもありません。すべての活動に等しく価値があるという考え方なので、生徒に何かをしなさいと言うこともありません。子どもたち自身が運営に関わる民主的な学校ということで、デモクラティックスクールと呼ばれることもありますね。米国を中心にして欧州や日本にも広がり、現在は世界に約40校あります」

——日本ではどれくらい展開されているのでしょうか。

「日本では1997年に兵庫県で「まっくろくろすけ」というスクールが設立されたのをはじめ、各地でスクールが設立され、現在は8校が運営されています。米国のサドベリー・バレー・スクールもそうなのですが、日本でも沖縄や八ヶ岳など、自然環境が豊富な地域に多いようです。サドベリースクールを名乗るのに何らかの許可が必要といったことは特にないですし、それぞれが独立して運営されているので、雰囲気は様々です」

——東京サドベリースクールはどのような学校ですか。

「サドベリー・バレー・スクールをモデルにして、2009年4月に創立したスクールです。学校理念として『あるがままの自分を信頼し選択することで自分の人生を生きる』『自由と社会性の調和』の2つを掲げています。開校時間は10時から16時までで、月曜日から金曜日まで週5日間通うことができます。学校教育法上の1条校(*1)ではありません。先ほどサドベリースクールは自然が豊かな地域に多いと話しましたが、東京の場合は都市型ですから自然は少ないです。その代わりに『人』という財産があります。子どもが望めば、例えば小説家や料理人、アーティストの方など、様々な人との交流ができるようにしています」

お菓子作りに取り組む生徒

お菓子作りに取り組む生徒

——どういった子どもたちが通っているのでしょうか。

「現在(取材時)は7歳から18歳までの子どもたち13名が通っています。一般の学校に通っていた子が入ってくるのは小学校・中学校・高校の1年生になるタイミングが多いです。登校拒否を経験した子もいないわけではありませんが、学校に通っていてより自分に合った場所がいいと感じた子や、帰国子女など、入る動機は様々あるようです。近所の子よりも電車で通っている子が多いです」

——スクールで子どもたちがどんな生活をしているのか教えてください。

「カリキュラムがないので、それぞれが自分の好きなことをしています。誰かとおしゃべりをしたり、ゲームをしたり、料理をしたり。1人で絵を描いたり、読書をしたり、考え事をしたり。チャイムがないので1つのことに集中しやすいのが特徴ですね。一日中、公園でダンゴムシを観察していたという子もいました。昼食はそれぞれがお弁当を持ってくるかキッチンで作るかして、好きな時間に食べています。出前を取ったり外出して食べたりすることもあります」

タブレット端末で何かを調べている生徒

タブレット端末で何かを調べている生徒

——いわゆる国語や算数などの勉強はしないのでしょうか。

「勉強をしたい子はしていますが、見かけることは少ないですね。『勉強は家でできる、学校はみんながいるからみんなと一緒に何かをする方がいい』という子もいます。スクールは夕方までですが、その後に学習塾に通っているという話も聞いたことがないです。歌やロッククライミングなど、自分で興味を持った習い事をしている子は多いです」

——大人もいらっしゃいますが、ボランティアスタッフの方でしょうか。

「常勤の職員のほかに、週1回、子どもたちと関わるボランティアがいます。ボランティア制度のほかにアドバイザー制度というのもあって、例えば子どもたちが料理を勉強したいと行った場合に、生徒と一緒にフランス料理のシェフに声をかけて、スクールに来てもらったこともありました」

(次のページは 叱るという行為自体が存在しない


*1: 学校教育法の第1条では「幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校」を学校とし、設置・認可の主体や義務教育の理念、各段階での教育目的などを定めている。

 



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