【まとめて読みたい教育経済学の入門書】

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こんにちは、eduview編集者の荒木です。
先週末から今週にかけて、このところ注目が集まっている「教育経済学」分野の新刊が相次いで発売されました。

ノーベル経済学賞の受賞者でもあるジェームズ・J・ヘックマン氏の『幼児教育の経済学』と、eduviewのインタビューにも以前登場されている中室牧子氏の『「学力」の経済学』です。
今回はこの2冊について、いち早くレビューをお送りしたいと思います。

 

『幼児教育の経済学』
(ジェームズ・J・ヘックマン著、大竹文雄解説、古草秀子訳、東洋経済新報社、2015)

就学前教育の意義を実証的に明らかにしたヘックマン氏の研究成果をコンパクトにまとめた本です。
ペリー就学前プロジェクトとアベセダリアンプロジェクトという、1960年代〜70年代に米国で行われた2つの社会実験とその後の追跡調査の結果などから、幼少期の教育がその後の人生に与える影響は大きく、特に貧困家庭の子どもたちが充実した幼児教育を受けられるような社会政策は、公平性の面でも経済効率性の面でも有効であると論じています。

ヘックマン氏の立論にあたるパートⅠに続いて、パートⅡは他分野の研究者や教育系非営利団体の創設者など様々な分野の第一人者たちによる批評、パートⅢはそれに対するヘックマン氏の回答、最後にヘックマン氏の研究を日本で紹介してきた大阪大学教授の大竹文雄氏による解説という構成で、いずれの内容も示唆に富んでいて面白いです。

全体的にさらっとした内容で、「良い教育とは何か」という疑問に具体的に答える本ではありませんが、幼児教育の可能性と必要性をあらためて認識させてくれる良書です。
教育関係者の方々はもちろん、社会科学や公共政策に興味を持つ方もぜひ一読されることをお勧めします。

『「学力」の経済学』
(中室牧子著、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2015)

こちらはさらに幅広く教育関連の統計を扱った、教育経済学の入門書です。
全5章の構成で、1章では教育分野におけるエビデンス(科学的な根拠)の重要性を説明し、2章では子どものほめ方や学習時間に関する研究、3章では自制心や粘り強さといった「非認知能力」に関する研究、4章では様々な教育政策の費用対効果に関する研究、5章では学校教員のパフォーマンスに関する研究を紹介しています。

2〜3章のペリー就学前プロジェクトや、そこで子どもたちが獲得したとされる非認知能力に関する記述は、上で紹介した『幼児教育の経済学』よりむしろ詳しく書かれているなど、さまざまなデータが丁寧に解説されています。
そのほとんどは教育政策などの平均的な効果を検証したものなので子育てに実践的に生かせるとは限りませんが、教育経済学にふれたことのない方にとっては、新鮮な驚きを与えてくれるのではないでしょうか。

こうした入門書の登場をきっかけに、教育経済学の研究成果を紹介する動きが広がっていきそうです。
教育を客観的に捉えることを目指しているeduviewも、読者の皆さんに最新の話題を提供していきたいと思います!



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