「サドベリースクール」が追求する自由の形〜杉山まさる氏に聞く

 会社で働く力は身に付くのか?

——サドベリー・スクールの卒業生の進路について教えてください。

「米国のサドベリー・バレー・スクールでは、アート・デザイン関連や教育関連、経営者や自営業といった進路が多い傾向があります(*1)。集中しやすい環境であることや、ユニークな教育形態であることが影響しているのではないかと思います。日本では、設立時期が早いまっくろくろすけさんなどで卒業生が出ていますが、まだ統計をとれるほどの人数ではありません」

米国の「サドベリ・バレー・スクール」の卒業生の進路

米国の「サドベリ・バレー・スクール」の卒業生の進路

——読み書きや計算などは誰でもできた方が良いと思いますが、そうした能力を身に付けずに卒業してしまうことはないのでしょうか。

「少なくともサドベリー・バレー・スクールでは、40年以上の歴史の中で、それを身に付けずに卒業した人はいないそうです。例えば計算は買い物をするために必要ですよね。個人差はあるものの、生活の中で本当に必要な能力はどこかの段階で自然に身に付くものだと思っています。実際に東京サドベリースクールの生徒でも、入学前の4〜5歳の段階で計算が好きだったという生徒もいれば、11歳になって計算が必要だと自分で思ってやり始めた生徒もいます。やろうと思う内容やタイミングはそれぞれですし、それらは大人の求める内容やタイミングとは必ずしも一致しませんが、子どもは知りたいとか必要だと思ったときには学習します」

——企業に就職した場合も問題なくやっていけるのでしょうか。

「サドベリー・スクールにいる子たちは、コミュニケーション力や、自分から進んで動く力を持っていますし、その場の雰囲気を読むのも上手です。話し合いなどを通して自分の周りの環境を良くしようという気持ちが強いので、むしろ会社自体をより良く変えていくことができるのではないかと思います」

——面白い考え方ですね。ただ、これだけ自由な環境で育った人が日本企業に入ると、不自由さを感じてしまうかもしれません。

「それはあるかもしれません。実際に先ほど話したように米国では自営業という進路も多いので、気の合う仲間とやっていくという人も一定数いると思います。ただ、それも社会の様々な人とのコミュニケーションが必要な仕事ですし、一般の学校を出た人のほうが社会で働きやすいかというと、そんなことはないと私は思います。6歳からアメリカのサドベリースクールに通っていて、帰国後は当校に通っている生粋のサドベリーっ子の生徒がいます。今15歳の彼女は、読み書き計算はもちろん、敬語も使えますし、思いやりをもって相手の話を聞き、自分の考えを伝えることができます。自分からやりたいことに一歩を踏み出してもいます。そんな子を社会は求めていると思います」

——サドベリースクールは世界で40校、発祥地の米国でも20校ということですが、まだ広がっていない理由についてどう捉えていますか。

「まだそういう社会ではない、ということでしょうね。全く授業をしないことに保護者が不安を感じるのは世界共通なのかもしれません。私たちもこのスクールがすべての子にとっての楽園とは思っているわけではないですし、こういう教育が良いという子のためのものだと捉えています。でも、時代が変わって子どもたちが多様性になる中で、徐々に広がってくると思います。最近ではサドベリー・スクールを立ち上げたいという人から相談を受けることも増えています」

「保護者の不安と言いましたが、保護者が共感してくれても、祖父母や近所の人には理解してもらいにくいという課題もあります。世代が違うとサドベリー・スクールの名前自体を聞いたことがない人が大半ですし、『同居していないので祖父母には内緒にしています』という場合もあると聞いています。あとは、1条校ではないので高校や大学に進学する場合は別の試験を受ける必要があるという、制度面の課題も大きいです」

(次のページは 自分がやりたいことをハートに聞いてほしい


*1: 東京サドベリースクールのウェブサイトでは、米国の事例をもとに卒業生の進路を紹介している。
URL: http://tokyosudbury.com/graduate

 



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