続・エビデンスベーストが日本の教育を変える〜中室牧子氏に聞く


 因果関係と相関関係を見誤らないで

——教育に関するデータを紹介したニュース記事などで、因果関係と相関関係とが混同されていることも多いですね。

「今年3月末に『親の年収が多いほど子の学力が高い傾向がある』という文部科学省の調査(*1)が発表されて話題になりました。この傾向自体は多くの研究ですでに言われていることですが、報告書の中には生活習慣と学力との関係についても書かれていました。具体的には『本や新聞を読んでいる子どもの成績が良い』『朝食を毎日食べている子の成績が良い』といったものです。これがニュースで『経済的に厳しい家庭であっても、本をたくさん読ませれば成績が良くなる』などと紹介されていたのは違和感がありました」

——逆に読むと意味が変わってしまうということでしょうか。

「そうです。『経済的に厳しい家庭であっても、成績が良いので本や新聞を読んでいる』という解釈もあり得ます。もしそうであれば、経済的に厳しい家庭の子どもに本を配る政策や、子どもに本を読ませようとする保護者の関与が成績を良くするために有効とは言えません。この調査のように、ある時点で分析対象から収集したデータを記録したものをクロスセクション(横断面)データと呼びますが、一般に、クロスセクションデータを用いて因果関係の特定をすることは極めて困難だと考えられています」

——因果関係を明らかにしないと、エビデンスに基づいた政策とは言えないですね。

「エビデンスベーストという考え方はもともと医療分野のエビデンス・ベースト・メディシン(EBM)から来ていて、一口にエビデンスと言っても信頼性によって6段階の階層があるんです。例えば、治療あるいは教育政策の対象となるグループと、比較対象となるグループをランダムに分ける『ランダム化比較試験』(RCT)で得られた知見は、階層性の高いエビデンスの代表として挙げられます。一方、専門家や研究者の個人的意見のようなものは、階層性の低いエビデンスとして扱われます」

医療分野におけるエビデンスのピラミッド

医療分野におけるエビデンスのピラミッド

——医療の分野では、新薬の開発時には動物実験も含めて3段階に分けて治験を行うと聞きます。

「教育分野においても、実験によって階層性の高いエビデンスを提供することが重要です。RCTの実例としては、教科書や給食の無償化や、補習授業の実施、少人数学級の導入、はたまた生徒の成績に応じてお小遣いやトロフィーを与えるといった実験が行われ、どういった介入が生徒の出席率や成績を上昇させるのかということが検証されています。適切な調査設計があって、因果関係を特定できるデータがあって、論文などの形でプレゼンテーションされており、再現可能性を検証することができる。そういったエビデンスであれば信頼性が高いと言えるのは、自然科学と全く同じです」

「最近では、予算の根拠としてエビデンスが必要であるということが認識されてきた反面、階層性の低いエビデンスをエビデンスとして利用しているような例も頻繁に見かけるようになってきました。例えば、自治体が独自に調査を行った結果などには、誰がどのようにデータを収集・分析したのかについて詳細な記述がなく、結論だけが抜き書きされているようなものもあります。このように、組織の外部の人から再検証が不可能なデータやエビデンスというのは、信頼できるものとは言えません。適切に個人情報を保護したうえでデータを開示し、外部評価という形で階層性の高いエビデンスを提示してもらうことが必要です。私は、自治体や学校は、エビデンスの提示が必要になった際には遠慮なく研究者の力を借りるべきだと思います」

(次のページは 「志」や「しつけ」は重要かもしれない


*1:文部科学省の平成25年度全国学力・学習状況調査「保護者に対する調査」
URL http://www.nier.go.jp/13chousakekkahoukoku/kannren_chousa/pdf/hogosha_summary.pdf

 




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