続・エビデンスベーストが日本の教育を変える〜中室牧子氏に聞く


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eduviewの3月のインタビュー記事では、統計データなどの科学的根拠に基づいた教育政策の重要性について、教育経済学の研究者である慶応大学SFCの中室牧子准教授に語ってもらった。今回は読者の方からの「さらに掘り下げた話を読みたい」というリクエストを受けて再びインタビューを行い、教育に関する統計データの読み方や、エビデンスを生かした教育改善の取り組みについて聞いた。
*前回の記事へのリンクはこちら→エビデンスベースト」が日本の教育を変える

 「どこの大学に行っても同じ」を変えるには

——前回のインタビュー記事の中で特に反響が大きかったのが「一卵性双生児、つまりDNAと家庭環境が同じ2人が別の高校や大学に行っても将来の収入は変わらない」という話題でした。

「賃金と学校の選択について考える時に、注目すべきは因果関係です。偏差値の高い学校に行ったから高い賃金が得られたのか、ポテンシャルの高い人だから選抜性の高い学校に行こうと思ったのか。前回話したように、日本では後者と解釈せざるを得ない結果が出ました。私が論文を書いた時に言いたかったのは『日本ではどこの大学に行っても同じだから気にしないでほしい』ではなくて、『日本の大学では資源配分が最適化されていないのではないか』ということなんです。例えば国立大学の場合、国の財政法・会計法などの枠組みが適用されるため、しばしばその弊害が指摘される『科目予算』や『単年度主義』などの存在によって、予算執行の柔軟性は限定されています」

——各大学が有意な差を生み出せるように資源を使えていないということですね。

「そうです。入学時の偏差値、国公立と私立、文系と理系、教員と学生の比率、外国人留学生の比率など、様々な変数について比較しましたが、どの変数に注目しても将来の賃金に差はありませんでした。1つの理由として、そもそもこれらの変数の分散が低いのではないかと考えられます。現在の日本の大学では教員や職員の給与にほとんど差がないなど、予算の使い方が非常に硬直的だからです。政府の教育再生実行会議は大学の特色化を進める方針を打ち出していますが、現在の枠組みでは各大学が特色を出そうとしても限界があります。資源の配分を最適化するためにも、まず資金調達・配分における各大学の裁量の枠を広げる必要があると思います」

——特色化という意味では、反転授業やMOOC(*1)を導入するなどして授業形態を変える大学も増えているのではないでしょうか。

「そうした授業形態を積極的に導入するのも特色化の方向性の1つになりますね。私たちの研究が意味するのは数値で表せる指標では差が出なかったということで、質的な指標を考慮に入れられているわけではありません。大学で指導教官から人生についての指南を受けたとか、活躍している友人から強い刺激を受けたとか、そういった経験が将来の賃金に影響を与えることも十分に考えられます。秋田県の国際教養大学のように徹底的に学生を鍛える大学もありますし、こうした大学が増えればおそらく違いが出てくるでしょう」

——就職支援や中退予防のために職員と学生のコミュニケーションを増やすなど、教職員の動きを変えようとしている大学もあります。

「大学の職員について言うと、研究資金の調達・管理、知財の管理・活用などを担当する『University Research Administrator(バッファ人材)』と呼ばれる人材に注目しています。米国にはこうした職員が15万人いるのに対して、日本ではその定義にもよりますが、600人だと言われています(*2)。つまり日本では先に挙げた業務も教員が担当しているのに対して、米国では専門性を持つ職員が一手に引き受け、教員が教育と研究に集中できるようにしているんです。バッファ人材の活用については、文部科学省など政府も注目しています(*3)し、今後研究が進んでいくものと思います。ただ私の知る限り、日本では、バッファ人材の獲得が研究の成果や研究費の獲得などにどのような効果があったのかということが定量的に示されていません。人件費は大学にとっては大きなコストですから、バッファ人材の活用の費用対効果検証は、日本の大学でも行われる価値があると思います」

(次のページは 無料でできる教育改善


*1: 反転授業などをテーマにした過去のインタビュー記事はこちら→「反転授業」と「MOOC」の根本的な違いとは
URL http://eduview.jp/?p=1107
*2:「リサーチ・アドミニストレーターの現状と課題」鳥谷、稲垣、2011
URL http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/bitstream/2297/35471/1/FRS-PR-TORIYA-M-33.pdf
*3: 文部科学省のウェブサイト「リサーチ・アドミニストレーターを育成・確保するシステムの整備」
URL http://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/ura/

 




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