世界の教育の潮流「新しい能力」とは〜松下佳代氏に聞く

 それ自体が学習経験になるのが「良い評価」

——知識ではなく能力を教育目標として掲げると、評価が難しくなりますね。

「知識・理解を問うテストに比べて設計が大変なのは確かです。最近では、思考プロセスも含めて学習者の能力を見るための『パフォーマンス評価』という方法が広がってきました。ここでは深く立ち入りませんが、学習者に課題を与えて実演してもらったり作品をつくってもらったりして、それを複数の人が評価基準表に沿って評価する『ルーブリック』もよく使われています」

——松下先生が考える理想的な教育評価とはどのようなものでしょうか。

「教育における評価は、学習行動を左右するという意味で非常に重要なものです。例えば評価の基準を学習者に対して明確に示すことで、学習への動機づけが生まれることもありますが、逆に、高い点数を得るためだけの学習行動を引き起こしてしまうこともあります。私は『学習としての評価』という考え方を支持しています。つまり、それ自体が学習経験になるような評価が『良い評価』だと考えています」

——今後はどういった研究に取り組んでいきたいですか。

「新しい能力に対するスタンスには、少なくとも3つあります。1つ目は、それを現代に合ったものとして受け入れ推進する立場。2つ目は、その問題点や危うさを理由に否定しようとする立場。教育方法学の分野にいる私たちは、どちらでもない第三の立場、つまり否応なく対応を迫られる教育現場の状況を少しでもましなものにするために、批判しつつ創り変えていくというスタンスで研究を進めています」

「近年は中国や東南アジアでも高校・大学への進学率が高まり、FD(Faculty Development、教員の教育内容・方法を改善するための取り組み)の重要性が認識されるようになっています。先月は北京師範大学に招かれ、新しい能力の概念を織り込んだ授業デザインをテーマにワークショップを行いました。今後は新興国でも新しい能力が注目を集めることになりそうです。知識と能力をどう組み合わせればよいのかという再構築の視点を持って、『汎用的な能力』一辺倒になっている風潮を変えていきたいと考えています」

(文:荒木勇輝、写真:吉田亮人)

【プロフィール】
松下氏プロフィール写真
松下佳代(まつした・かよ)
1960年福岡県生まれ。京都大学博士(教育学)。京都大学教育学部助手、群馬大学教育学部助教授などを経て、2004年から現職。次期学習指導要領改訂に向けた文部科学省の資質・能力に関する検討会の委員も務めた。編著に『〈新しい能力〉は教育を変えるかー学力・リテラシー・コンピテンシー』(ミネルヴァ書房、2010)、『パフォーマンス評価ー子どもの思考と表現を評価する』(日本標準ブックレット、2007)、『高校・大学から仕事へのトランジションー変容する能力・アイデンティティと教育』(ナカニシヤ出版、2014)など。
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