チンパンジー研究で分かった人間の子育ての本質〜松沢哲郎氏に聞く


 人間の赤ちゃんは仰向けで安定している

——「人間らしさの起源は赤ちゃんが仰向けの姿勢で安定していることにある」という説を唱えておられますね。

「直立二足歩行説という、広く信じられている説がありますよね。動物は四足で歩いていました、人間は立ち上がって手が自由になりました、それで道具を使うようになりました、そのことが脳を刺激して脳が大きくなりました…この説明が間違っていることは、霊長類を見てもらえれば分かります。樹上生活で木に登るので体幹は直立していますし、4つの手(*3)を自在に使って幹を掴んでいますから。人間の場合は森から地面に降りたことで手のうちの2本が足になったと言うべきであって、体幹が直立しているのも、手があるのもチンパンジーと同じだということです」

チンパンジーの赤ちゃんは常にお母さんの体にしがみついている

チンパンジーの赤ちゃんは常にお母さんの体にしがみついている

「一方で、赤ちゃんが仰向けで安定していられるのは人間のとてもユニークな点です。こんなサルはどこにもいません。例えばチンパンジーの赤ちゃんを仰向けに寝かせると、手足を伸ばしてもがくような格好になります。本来離れるべきではない、お母さんの体を掴もうとしているんです。しかし人間の場合は、先ほどお話ししたように出産間隔が短く複数の子どもたちを同時に育てますから、いつも赤ちゃんを抱いているわけにはいきません。仰向けで安定しており、さらに言えばニコニコと愛想をふりまいて母親以外の大人からも協力を引き出すことができるのが、人間にとっての“良い赤ちゃん”だと言えます」

——このことが人間の進化にとってなぜ重要だったのでしょうか。

「仰向けの姿勢がなぜ重要なのかというと、3つの要素が挙げられます。1つ目はフェイストゥフェイスのコミュニケーションを促進すること。腰にひっついていたらお母さんの顔は見えませんが、人間の場合は体が離れているから母子間で微笑みやまなざしが交わされるんです。2つ目はことばにもつながる声と声のコミュニケーションを促進すること。お乳が欲しい時、お母さんにしがみついていれば泣く必要はないですが、人間の赤ちゃんはお母さんを呼ばないといけません。夜泣きをするのは人間だけなんですよ。そして3つ目は、手が自由に使えるということ。しがみつかずに背中で体重を支えているから、ガラガラなど様々なものを握ったり持ち替えたりすることができます。人間は立ち上がって手が自由になるのではなくて、産まれた時から手が自由なんです」

(次のページは チンパンジーの道具使用と「学習の臨界期」


*3: 霊長類の多くは、後肢を人間の手のように使って木の幹や枝を掴むことができる。このため、以前は霊長類のことを四手類と呼んだ。

 




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