「闘うワークショップ」のつくり方〜上田信行氏に聞く

「教育界にはスターがいない」

学生たちが学びを俯瞰できるように演習室内の一段高い位置に設けた「メタフロア」

学生たちが学びを俯瞰できるように演習室内の一段高い位置に設けた「メタフロア」

——完全に即興のワークショップをやりたいと思うことはありますか。

「やりたいですね。ワークショップだけじゃなくて、絶対準備してきてはいけないシンポジウムなんかもやりたいです(笑) ワークショップを完全に即興にするのは実は難しくて、スタッフとよほどツーカーでないとできないですね。僕は、一人ならいつも即興です。その場でリアルタイムでないとアイディアが湧いてこないんです。最近はそれがひどくなって、前の日に準備できなくなりました。そのかわり、先ほどもお話しましたが、ぎりぎりまでテーマを考え抜きます。それができていると、あとはサーフィンで波に乗るのと同じように、状況の中で参加者と一緒に作業に没頭することができます」

——これまでに出たキーワードからも感じますが、ミュージシャンのことをかなり意識されていますね。

「ミュージシャンの人たちはうらやましいですね。1万人のライブを開いて、ちゃんとペイできる仕組みになっている。なんで教育の世界で同じことができないのか、昔からずっと悔しいと思っていました。教育界にはロックスターがいないんですよ。音楽や舞台のようなパフォーミングアートはもちろん、デザインの世界にも、建築の世界にも、そういう人がいるじゃないですか。狼少年みたいですけど、僕は1万人のワークショップをしたいと言い続けているんです」

——ワークショップをビジネスにするのは難しいですか。

「講演会は有名な人を講師として呼べば何百人も集められるのでビジネスになります。でも、たくさんのスタッフが必要な研修会のように、登壇者や出演者が複数になるとペイするのは難しくなってきます。ワークショップにいたっては人件費がかかるうえに、参加者が10人とか20人とかでしょう。ワークショップのデザインを大学で勉強した学生がそれを仕事にできなかったら結局この業界は廃れてしまうので、これからはビジネスモデルをしっかりと打ち立てていかないといけませんね」

——どういったビジネスモデルが考えられますか。

「企業や病院向けの研修ならビジネスにするチャンスはあると思います。最近はチーム医療が注目されていることもあって、看護師さんなど医療系専門職の方向けのワークショップを頼まれる機会も増えてきました。若手のワークショップデザイナーたちがグループを組んでビジネスにしようとしているような動きもあるので、応援していきたいですね」

——ワークショップの特性かもしれませんが、個人によって得るものが違うことが企業研修として浸透していく際のハードルになるかもしれませんね。

「ワークショップには言葉にならないすごく大きな変化を起こせる可能性がありますが、受講すればこれが身に付きます!と謳っているセミナーの方が今の日本では分かりやすいでしょうね。それは僕たちにとっても悩みで、ビジネスにするためには何が具体的に得られるかを可視化することが必要なのかもしれません。あとは、ワークショップデザイナーやファシリテーターとしての腕前はスポーツのように体で感覚をつかんでいって上達するようなところがあるので、若い人には同じ場所でやり続けるだけではなく、どんどん他流試合に挑んでほしいと思います」

(次のページは 自分の境界を広げる「learning4.0」

 



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