「食えるアーティスト」をどう育てるか〜椿昇氏に聞く


 

 野山で遊んでそのまま大学に来て

——アートプロジェクトでは可能性のある若者にどんどん仕事を振っていますね。どこを見て資質を判断しているのでしょうか。

「それはやっぱり、素直さと人柄やね。アートは人間の魅力と作品とが一体化しないといけない。アーティストの中には『自分には才能があるのに認めてもらえない』と思っている奴がいっぱいいるけど、ルサンチマン(*5)を持っていること自体がすでにダメ。体質改善をしないといけない。あとは人間だれでも調子の波があるけど、アートは特に単純作業が多い。調子が落ちる時にいかに小さくするか、鈍感になる力も重要。そういう子をカツオの一本釣りみたいに集めている」

「だいたい女子の方がそういう資質を持っていて、フリーに動ける子が多い。男の方が社会に拘束されている。男が芸大に行きたいというと、今でも家族会議開いたりするでしょ。さっき挙げたような面白い生き方をしている芸大卒の女子を紹介した『そうじゃない女子』という本を作ったことがあるんだけど、今度は良くない意味で現状に満足している『ちょうどいい男子』を作ろうと思っている。男にも可能性はいっぱいあるので、反面教師にしてほしい」

「そうじゃない女子」では「醤油ソムリエ」などユニークな職業を紹介している

「そうじゃない女子」では「醤油ソムリエ」などユニークな職業を紹介している

——現在の日本の学校のアート教育について、どのように捉えていますか。

「禅の教えにもあるけど、いらんことをしなければ人間はすっと立つ。放っておけば人間はいくらでもクリエイティブになるのに、幼稚園から高校まで、変に絵の描き方とかを教えてそれを奪っている。野山で遊んでいて、そのままうちの大学に来てくれる方がよっぽどいい。僕の仕事は、大学に入る前に歪んだ本質的なエネルギーを取り戻してもらうこと。修理屋さんみたいなもんです」

——小豆島をはじめとして、地域の人を巻き込んでアートプロジェクトを展開されていますね。

「最初は変な奴らが来たなって感じだったのが、やっているうちに地元の人の姿勢が変わっていくのが面白いね。僕らが全力投球で制作していると、ビートたけしさんとか、伊藤穣一さん(*6)とか、そういうすごい人が関心を持って見に来てくれた。そうすると地元の人も『こいつら本当になにかやるぞ、福の神かもしれない』と思って必死で協力してくれる」

——アートにあまり理解がない、閉鎖的な地域も多いのではないですか。

「僕らもビジネスでやっているわけじゃなく、好きでやっているので、そういう閉鎖的なところとは組めない。リサーチしてから行くようにしている。うまく行っているのを横目で見て形だけ真似しようとする、いじわるじいさんがいるところも無理。逆に、素直な気持ちで頑張っている、正直じいさんがいる地域は何とかして助けたい」

(次のページは 僕は全身が闇みたいな子だった


*5 哲学者ニーチェが著書「道徳の系譜」でキリスト教を批判する際に用いた概念で、社会的な弱者が強者に対して持つ恨み・妬みなどを指す。

*6 日本の情報技術産業の発展に貢献している投資家・実業家。米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの所長を務める。

 




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